こんにちは。SmartHR CEOの芹澤です。

突然ですが、みなさんは落語を聴いたことがありますか?
僕はついこの間まで落語はいっさい聴いたことがなく、持っている印象としても「祖父が好きだった」とか「ドラマ『タイガー&ドラゴン』の題材となった」とかそれくらいのものでした。

今回は、そんな僕がふとしたことから落語に興味を持ち、人生で初めて「寄席」に行くまでの経緯、そして、落語を聴いて感じたことを書いていきます。

プレゼンスキルを高めたい

そもそものきっかけは「プレゼンスキル」への関心です。

「ペンは剣よりも強し」や「武器は説得に屈服する」など、古今東西の賢人が「言論の影響力」について言及していて、現代社会を生きる多くの方も日々これを強く実感されていることかと思います。

かくいう僕も、CEO業をやっていると大勢の人に対して「話して伝える」シーンに恵まれるため、毎日のように通意性について思いをめぐらせています。人に何かを伝えるということは、日常的に行われる動作の1つであるものの、実は非常に難しく、自分の解釈を100%そっくりそのまま他の人に伝えることはほぼ不可能と思っていただいてもいいかもしれません。人間、100人いれば100の解釈が存在するのです、育ってきた環境が違うから。特に、社外のイベントで話す時は、多くの人が僕や僕が話すことのバックグランドをあまりご存知ない状態からのスタートとなるので、この難易度がより一層高くなります。

プレゼンの数をこなし、資料の作り方やトークスクリプトのロジカルな組み立て方には自信がついてきてはいるけど、どこかスキルの伸びに頭打ちを感じる。この壁をぶち破って自分のプレゼンテーションスキルをさらに高めるべく注目したことの1つが「ユーモア」でした。

ユーモアは最強の武器である

自分の経験上、信頼できると思う人やついていきたいと思う人は、大体独特なユーモアセンスを持っていましたし、そういう人たちの言うことは自然と真面目に聞く傾向にありました。

世の中には同じことを考える人がいるもので、スタンフォード大学にはこの「ユーモア」の力をビジネスシーンで活かす研究している人たちがいて、彼らが出した本の中でも、ユーモアには以下の効果があることが言及されています。

  • ユーモアを持つ人は「知的」「有能」というイメージを持たれる
    • リーダーはユーモアを活かすことでより「みんながついていきたい」と思うような人になれる
  • ユーモアは場の心理的安全性を高める
    • 結果として、クリエイティビティや生産性の向上が望める
ユーモアは最強の武器である―スタンフォード大学ビジネススクール人気講義 amazon.co.jp

落語から喋りのユーモアを学ぶ

自分のプレゼンテーション能力、そしてリーダーシップを少しでも高めるべく、ユーモアの力を借りたい。そんなことをエグゼクティブコーチと発散的に話していたところ、「落語」をオススメされました。僕は落語のことを全く知らなかったのですが、コーチいわく「同じ話でも噺家によって面白さが全然違う」「上手い人はマクラ(本題に入る前の小咄)から面白く、グっと引き込まれる」とのことで、ユーモアを言葉だけで操る噺家を観察するのは何かヒントになるのではないか、とのことでした。

調べてみると寄席というのは都内のいろんなところにあり、年中落語がナマで見れることを知りました。長年東京に住んでいても知らないことはあるものです。早速スケジュールを調整し、一番アクセスしやすかった「新宿末廣亭」にいってみました。

実際に落語を見てみると、初心者でも普通に引き込まれ、笑えますし、何より、学べることが沢山ありました。以下、気づいたことを書き連ねていきます。なお、本文で「落語」という場合は、いわゆる「江戸落語」を指すものとします。

ノンバーバルコミュニケーションの大切さ

まず、落語というものは基本的に噺家が1人で座って話す形で進行し、語りと多少の小道具(扇子・手ぬぐい)だけであらゆる登場人物を演じ分け、物語を展開させる超絶技巧の上に成り立っています。もちろん聴き手にもそれなりの想像力は要求されますが、このシンプルな手法で色鮮やかな情景を描くのは、噺家の声のトーンや間合いの取り方、表情、身振り手振りといった非言語領域でのテクニックが肝になっていると感じました。

それゆえ、落語は音声だけでなく、ナマか動画で見た方が圧倒的に面白いです。演目によっては、身振り手振りで落ち(サゲ)が成立するものもあるらしいです。

落語を聴いた後に自分のプレゼン動画を引っ張り出してみると、このノンバーバルな部分への意識があまり及んでいないことがとてもよくわかります。もちろん、ビジネスシーンでどこまでやるかというのはありますが、印象の残りやすさや引き込まれやすさ、飽きのこなさを追求する上で、噺家が行っている工夫を参考にする余地は大いにあると思います。

導入(マクラ)の大切さ

多くの噺家が本題の前にマクラというものを話し、小咄を通して聴衆の気を惹きつけます。上手い人だと臨機応変に客いじりをしたり、いい具合に本題に繋がるような伏線を張ったりするのですが、このマクラだけで 「この人は何やら面白いことを話しそうだ、気合を入れて聴こう」と思わせる力があることに驚かされます。

これはビジネスシーンでいうところの「アイスブレイク」ではないでしょうか。プレゼンや会議で本題に入る前にちょっとしたアイスブレイクを入れることがあるかもしれませんが、そこにおいてもこのマクラの考え方は役に立つと思います。ちょっとした雑談で場を温めるのも良いですが、それが実はアジェンダの伏線になっていたりすれば、参加者の興味をそそること間違いなしです。参加者が内職してしまったり居眠りしてしまったりするかどうかは、導入時点であらかた決定してしまうのかもしれません。

落ち(サゲ)の大切さ

落語はその名の通り、多くの演目においてサゲと呼ばれる、いわゆる「落ち」が存在します。この落ちにより聴き手は面白く思ったりカタルシスを感じたりするわけですが、綺麗に落ちる話しほど記憶に深く刻まれる傾向にあることに気がつきました。落ちにもさまざまな分類があるのですが、なんとなく、落ちるためにはそこに至るまでの経緯にある程度筋が通っている必要があり、綺麗に落ちるものは全体を通してストーリーとしての「why」がわかりやすいため、記憶に残るような気がします。

そして僕はこれは、ビジネスシーンでいうところの「腹落ち」なのではないかと思いました。プレゼンも「起承転結」でストーリーを展開すべしと言われますが、「結」で理解・納得していただくためにはきちんと「why」を説明する必要があります。逆にいうと、「結」で落とせないプレゼンでは人の記憶に残りにくいのです。

落語を聴こう

以上がしばらく落語に触れてみて得られた気づきです。

何かを伝える上で「導入」と「落ち」が大切、といいつつ、この投稿に特に落ちはないのですが、ぜひ興味を持っていただけたら落語を聴いてみてほしいです。僕もまだまだ落語から学べることがありそうなので、引き続き聴いてみようかなと思っていますし、また折を見て寄席に行こうと考えています。

いわゆる「スタンダード」を聴いてみたい、という場合は、Spotify にある以下のようなプレイリストがおすすめです。


「古典落語だととっつきにくい…」という方には、ドラマ「タイガー&ドラゴン」をオススメします。僕もこの落語マイブームの一環で一気見してしまいましたが、クドカンらしい古典落語の解釈が楽しめます。本文の執筆時点で Amazon Prime Video で配信中です。

さぁ、落語を聴こう!

Appendix

  • 社内 Slack の times で「落語に興味を持った」ことを投稿したところ、「さだまさしのステージトークを聞いてみてください!」というレコメンドをいただきました
    • 全く知らなかったのですが、さださんのコンサートでは毎回抱腹絶倒のステージトークが行われていて、これを研究目的にコンサートにくる芸人もいるくらいなのだとか
    • そして、さださんは「落研」出身らしい
    • さだまさしトークベスト」というものが Spotify で配信されていたので聞いたところ、確かに落語らしい落ちのあるストーリーを巧みな話術で展開していて、それでいて落語ほど「古典芸能」感はなく、非常に興味深かったです。というか、普通に爆笑しました
  • 僕が寄席で見た落語で一番面白かったのが春風亭一之輔さんでした。演目は「桃太郎」だったのですが、独特の勢いと毒のある感じが好きでした
    • 寄席にいった翌日に「笑点」新メンバーになったことがニュースになっていて、あまりのタイムリーさに驚きました
    • 「いま最もチケットが取れない落語家」と言われているそうですね。ビギナーズラックを感じます